工房きえん

工房きえん 桝井 康行さん

下市町は「割箸発祥の地」といわれています。美しい吉野杉を伐採し、製材した端材を生かして大切に作り続けられてきたのが下市の割箸です。工房きえんの桝井康行さんは、下市町にやってくる前から吉野で割箸職人として20年以上のキャリアを持つベテランでした。新天地・下市町では割箸のほかにも、いろいろな木工製品を手掛ける桝井さん。その製法や素材、仕事への想いなどについてお聞きしました。

「下市町には6年前に来ました。それまでは、吉野町で割箸づくりを27年やっていました」工房きえんの桝井康行さんは、下市が割箸発祥の地ながら、後継者不足の問題を抱えていることを知り、地域おこし協力隊として下市町にやってきた。「はからずも『発祥の地』に新規参入することになりましたが、働く場所が変わることに不安はありませんでした。吉野町では檜の割箸を作っていましたが、下市町では杉の割箸を作っています。工程は少し変わりますが、箸の形に変わりはありません」

「割箸以外にも木で作れるものはいろいろ作っています」「何か面白いものを」と一味違うことをしているのだとか。「ごっつい杉をくり抜いて作った一枚物の寿司桶。結構好きな人がいて少々値段が張っていても絶対に買ってくれる人がいます。この寿司桶は建築などでは使われないごっつい木の根元の方の部位を生かして作ります。こっちはぐい飲み。これで酒飲んだら美味しいよ。ワンカップの味も変わる。これも寿司桶と同じ材料で作ります。割箸は製材所から出る端材でできる食器です」

端材から作られる割箸だが、桝井さんは「見た目の良さ」にこだわっている。例えば、昔は箸といえば口元に入る部分がちょっと短くなっていた。それをわざと伸ばしてバランスの美しい箸を作っている。「下市町では『らんちゅう箸』というお箸があるんですよ。それに塗りを施して見た目の美しさにも気を配っています。これらは木目の細かいところを使ってきれいに仕上げているから、違いを分かっていただける料亭とかホテルや銀座のお寿司屋さんとかで使っていただいています」

桝井さんには心配事がひとつある。材料となる木材についてだ。「需要の問題か、あるいは林業の就業者不足か、いずれにしても大きな木の供給が減っています。世の中には『木っていいよね』っていう感性がずっと生き続けていてほしい。昔だったら家族の集まってくる場所には杉や檜がありました。家・家具・食器、日本人の暮らしの中に欠かせない木の良さをもう一度見直してほしいと思います」

ところで、桝井さんの屋号・工房きえんは「木の縁」からきているのだとか。「別の意味では、ちょっとそっとでは『消えん』というのもあって(笑)または、熱くやりとげるということから『気炎万丈』というのも。今は何でもそろう便利な時代ですが、木でここまで出来るものがあるということをもっと知ってもらいたいですね」

体験コンテンツ

日本遺産に登録された割箸づくり技術を体験いただけます。専用の機械を用いて割箸を製作した後、杉の薄皮や友禅和紙などを用いてオリジナル箸袋を作ります。焼きペンで好きな文字を割箸に入れることができ、世界で一つの割箸を作ることができます。

吉野杉・檜を材料に、割箸や寿司桶などを製作する工房
工房きえん

名前

桝井 康行

場所

奈良県吉野郡下市町伃邑492-1

アクセス

近鉄下市口駅から奈良交通バス岩森(下市温泉)下車、徒歩20 分
京奈和自動車道 御所南ICから車で35分