伝統技術の継承とともに開かれる新しい扉の話
吉谷木工所 吉谷 侑輝さん
さまざまな土地の特性と歴史がいろいろな産業を育んできた下市町。三宝はその真ん中にあるのかもしれません。吉谷侑輝さんは吉谷木工所の次期6代目。伝統とは、頑なに守り続けられ深化するものもあれば、時代に合わせて少しずつ進化していくものもあるということに気づき実践しています。「『神具』から『新具』へ」を提唱する吉谷さんに、その心と想いについてお聞きしました。
三宝は「後醍醐天皇御用達」がルーツ
「三宝は700年前、南北朝時代に後醍醐天皇が吉野に皇居を移されたとき、献上物の器として三宝が用いられたのが始まりとされています」吉谷木工所は明治43年創業。三宝や神具を作ること114年。吉谷侑輝さんは家業を継ぐべく6年前から従事している。ところで、下市町の三宝の全国シェアは約8割なのだとか。そこは発祥の地の強みなのだろうか。
「マイ三宝」の自由
「確かにそのように言われていますが、三宝の市場はすごく小さいので…。三宝に関しては、今も昔も変わらず、神具店の取引が多いです。しかし、最近、お花屋さんから問い合わせがあって、花を三宝に乗せてオブジェとして使うことがあると聞いています。このように三宝を神具としてだけでなく『マイ三宝』みたいな感じで自由な使い方をしていただくのはメーカーとしてはとても嬉しいことです」
檜と「挽き曲げ」技術
三宝に使われる吉野檜の生産と加工もまた下市町の伝統産業。下市町は昔から林業が盛んで、吉野檜は吉野杉と同様に、木目が良く詰まって美しいため、神様に供える道具を作るのにふさわしい材料だった。吉野檜が豊富にあったという土地柄も三宝づくりに欠かせない土壌だったということだ。「粘りの強い吉野檜が三宝の技術である『挽き曲げ』という技術に適した材料だということもあります。『挽き曲げ』とは、一枚の板にスリットを入れ、それに沿って曲げる技術です」
「TONGI」のひらめき
吉谷さんは三宝づくりの技術を生かした新しい商品づくりにも力を入れている。2020年からのコロナ禍の時期によく使われていた「非接触」という言葉に着眼して、三宝づくりの技術で作れる道具がないものかを考え、ひらめいた。それがトング(商品名:TONGI〝トン木〞)だ。「実は木製トングという分野は既に結構あったのですが、柄の部分は木製でもバネの部分は鉄製というのが多く、すべて木でできたものはありませんでした。『うちの技術なら、これできるんちゃう』と思って試行錯誤の末、完成しました」
マルチボックスで気づけたこと
また、八角形のマルチボックス「八宝」は2020〜21年の「にっぽんの宝物JAPANグランプリ(全国大会)」でグランプリを受賞した商品だ。「釘が一切使われていないこと。それがSDGsに適うのと、ごみ箱や棚など多目的に使える実用性が評価されました。マルチボックスを作って良かったことは『挽き曲げ』の技術が多角形に優れていることに気付けたこと。試作しているうちに六角形や八角形も作れるようになりました」
新商品で開く未来
「TONGIは、まだ少ないながらもファンの方がおられて、直接連絡がきて『トング、めっちゃいいですね』って言われることもありました。自分たちが作った商品がお客さんに評価されることほど嬉しいことはないですね」
体験コンテンツ
日本遺産の伝統技術「挽曲げ」でつくる 三宝/小物入れ
日本遺産に登録された「挽曲げ(ひきまげ)」技術を用いて「三宝」または「小物入れ」をお作りいただけます。下市発祥の三宝づくりと歴史を学べるほか、檜の豊かな香りに包まれた木工所で、木材が加工される過程を見学することができます。
伝統の曲物技術を受け継ぎ三宝を製作する木工所
吉谷木工所