杉箸に触れて知ってほしい吉野の山と森と木のこと
吉辰商店 吉井 辰弥さん
はさむ。切る。運ぶ。2本の木でさまざまな機能があるお箸。お作法まであるように箸は日本人の心まで表す食の道具です。食事の場を時に楽しく時に華やかに彩る箸が下市町にはあります。手に優しく、軽く、温かみのある杉箸は、おもてなしの場でいつも大切にされてきました。下市町で杉箸づくりをされる吉井辰弥さんに仕事にまつわる取り組みや想いについてお聞きしました。
吉辰商店の「源流」
「食事する時、最初から最後まで手にしているのがお箸。お箸は心を込めて作った料理人と食事する人の間を取り持つ道具です」というのは吉辰商店の吉井辰弥さん。吉井さんは、吉野杉の箸や小物を製作しつつ、その背景にある文化や産地などを伝える活動を続けている。「最近は下市漆器の塗箸を復興しました。私の3代前までは、この地で塗師として漆器の生産に関わっており、その伝統を繋ぐ取り組みです」
新しい試みと古びない心
「ふところ石(懐石)」や「和のもてなし」など和を感じさせるネーミングとデザインは吉井さんのオリジナルブランド。もちろん伝統的な杉箸も作り続けている。「『利休箸』というお箸は、千利休がお客様をお迎えするとき、吉野から材を取寄せて小刀で削り、お客様のために提供したといわれています」つまり、「おもてなし」はお客様が来る前から始まっていたということだ。「お箸にはそんな文化があります。私たちは奈良県の主要な自然資産である木を使って、お箸の文化をいかに伝えていけるかということを考えています」
山の現状を知っていただくこと
その取り組みのため、吉井さんは消費者に下市へ足を運んでもらい、自分の手で箸を削ってもらうワークショップや林道や山を見に行くツアーを行っている。「ワークショップでは、自分で鉋を使って木を削っていただいています。初めて鉋を持つ方も多くて、うまく削れるとすごく喜んでくれます」また、林道ツアーの目的は『山の現状を知っていただくこと』。間伐は国の施策であるものの、搬出の費用が出ていないので切り倒したまま放置されている林がある。それを見に山の尾根まで上っていくのだとか。
自然と産業のサイクルに元気を
「原木が伐採されて、それを製材所が柱などの建築材に仕上げます。その残りを端材といって、箸屋はこの端材を使います。国連が提唱する『S D Gs』ですが、日本の産業は意外と昔から『SDGs』だったといえます。このサイクルがもっと健全にまわれば、日本の山や林業、そして木製品は元気になれると思います」
おもてなしの心を杉箸で
最後に吉井さんの考える吉野杉箸の魅力とはどんなものなのだろう。「手に優しく、軽くて、温かみのあること。吉野杉箸は吉野の木材の素材の良さとそれを活かした技術のたまものです。それは実際に使ってもらえたら分かっていただけると思います。だから、いかに『価値のあるもの』とお客様に認めていただくことができるか。国産杉のお箸の文化を分かっていただけて、おもてなしの気持ちが伝わるようなお箸をお客様に届けたい。それが自社で製造できて、直接に売ることができれば最高です」
体験コンテンツ
吉野杉を学びながらオリジナルMY箸作り
吉野杉というブランドについてその生い立ちを学べるほか、箸作りを通して日本の林業や割箸生産について学ぶことができます。MY箸作り体験では、豊かな香りの吉野杉を鉋で削り、自分だけのオリジナルのお箸をお作りいただけます。削ったお箸に蜜蝋を付けて磨き、滑らかな手触りに仕上げます。
人と料理の間に心を伝える吉野杉箸の製造販売を行う
吉辰商店